皆さんこんばんは、川崎の油舐めこと寺川内 耕造でございます。

昨今は様々な事件が起きるようになって平和な国日本もおちおち枕を高くして寝ているワケにはいかないようです。
そうはいっても昔から様々な事件がモチーフとなって小説やドラマが発表されましたが、そのうち作家さんの独自性のあるサスペンスやミステリーが生まれてくるようになってきました。

その中でも特異な物語の書き手として注目しているのが殊能将之さん。
そして氏の作品の中で最も成功した作品が「ハサミ男」ではないかと思うのです。

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この作品は麻生久美子さん、豊川悦司さんの主演で映像化されたのでそっちでご存知の方も多いかもしれませんね。

物語は正体不明の「ハサミ男」が犯行を繰り返していくのですが、その現場にある「ハサミ」から次々と謎を解き明かしていくのですが、その謎の解き方が小説ならでは、というものでした。

ですから映像化に伴うネタバレ感はどうされるのかと自分なりにああでもないこうでもないと思っておりましたが、なるほどこう来ましたかと感嘆せざるを得ない出来だったかと思います。

ただこの物語の一番のカギは紙面のこちら側(読み手)と物語の中の登場人物たちとの錯誤にあるのではないかと思うのです。
そしてそれは物語の中にぐっと引きこむ作者の精緻な筆運びになるのではないかと思うのです。

この作品以外にも筆者の作品を数冊読みましたが、「わかりにくい」ことこの上ない作品ばかりでした。
ただ不思議なのが物語は自身の中でしっかりと映像化されます。

つまり頭の中で映像として実を結びやすいのですが、それがはたしてなんなのかと問いかけたくなる、とでも申しますのでしょうか。
不可思議な空間、あるいは登場人物が織りなす物語は目の前で確かにあるのですが、読み終えたころにはすべてが両手から零れ落ちてしまっているような、そんな感じなのです。

ただそういうことがあるかもしれないという不安をも感じさせてくれる写実的な社会風景は圧巻ですしグイグイ読み込ませてくれる迫力はなかなかのものがあると思います。
心理描写の書き込みは過剰になりそうなところをぎりぎりまでそぎ落としたかのような印象を受けます。

最後の最後まで息をもつかせぬ展開が繰り広げられますが、ラストは読み手によって好き嫌いが分かれるでしょうし、「うーん…」と思ってしまう人も少なくないと思います。

ただ、犯人の描写の変化は思わず「あっ!」と声を上げそうになりますし最後の落としどころは次回作が期待できるかのようでもあり、筆者の確かな文才を思う存分堪能できる作品かと思います。

映像の前に是非とも小説の方を手に取っていただきたい、そんな作品です。